DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代、医療はどう変わっていくのか。生活習慣病の代表格ともされる糖尿病の専門医で、1990年代後半~2000年にかけて医療情報ポータルサイト(MediPro/MyMedipro)を立ち上げるなど、デジタル領域についても豊富な知見を持つ鈴木吉彦医師(HDCアトラスクリニック院長)に医療とデジタルの新時代について語ってもらいます。
独自の「オンライン医療」プラットフォーム(以下、PFと略す)ができました。実証段階に入りましたので、そのコンセプトを紹介します。
Think Small
「オンライン診療」は図1のような形です。特殊技術を追加しダウンロードは不要です。
この2年間、自前のクリニックでUX(顧客体験)を磨いていました。その間、「オンライン診療」は正常稼働していましたが、独自の「オンライン面会」の仕組みを追加しました。PFはこの2つの要素を組み合わせたものになります。
独自開発した「オンライン診療」システムの特徴
特徴は、医療機関のHP(ホームページ)の外来担当表から、3回クリックするだけで予約申し込みができることです(図1)。外来担当表が、極めて細かくても大丈夫です。HPの内容を熟読してから予約ができます。
アプリを排除し、サイトでのクリック数を極力減らし、丁寧な申し込みフローを実現することで患者第一主義を貫きました。患者にとってはPCからでもスマホからでも利用できるUI(ユーザーインターフェース)です。小さな部分(small)にも気配りし、ミニマムだが最大限の効果を引き出す要素だけを残しました。
Think Different
他と類似の事業を始めれば後発ですが、路線を変えると最先端になります。よって「他と違うこと(difference)」を始めました。それは「オンライン診療」と「オンライン面会」の仕組みを並立させることです。単純な組み合わせに見えますが、私が知るかぎり世界でも先行事例がありません。
「面会」というのは様々なシチュエーションがあります。医師と他の医療従事者同士がミーティングする場合や、製薬企業の医薬情報担当者(MR)から面会を求められる場合などがあります。後者のケースを本記事内では「リモートMR」と呼びます(図2)。既に実証実験で成功しています。
「Zoom(ズーム)」や「Meet(ミート)」「 Teams(チームズ)」のようなオンラインミーティングが製薬企業ごとに仕様がバラバラだと医師側は迷惑で面倒です。よって、本システムに統一すれば、一貫性ができ利便性が高まります。医師側は経済的負担をゼロにします。終了したら1分後に切れる仕組みも挿入しています。医師自身だけでなくMRまでも、Zoomなどと有料契約する必要性がなくなります。
コロナ禍前は、MRと医師の関係はリアルに会うことで、MRから医師へと手渡しされる資料に基づいた情報提供が主でした。しかし、コロナ禍の間は自粛され、リモートが普通になりました。
そうした状況下で本システムを活用すれば、製薬企業側にも多大なメリットはありますが、医師側のメリットはさらに大きいです。わざわざMRに待機してもらう必要がないからです。約束の時間に「面会」ができ、必要な時に必要な新薬情報を受け取ることが可能になります。
「オンライン診療」を利用しても予約時間が満席に埋まることがないのが実状です。よって予約が入っていない時間帯(スキマ時間)を、リモートMRからの情報入手に活用することで埋め合わせができ有効活用できます。ここに「半学半教」の精神でニッチ市場があることに気がつきました。医師や薬剤師にとって余っている時間はもったいないから、製薬企業から教え教わり有効活用しよう、この発想が独創的なアイデアであり、「破壊的イノベーション」になるだろうと考え、特許も出願しています。
Think Big
この仕組みを拡張させると、医師の複業としての「オンライン相談」ができます。「相談」であれば、医師は、自宅からでも海外からでも日曜日でもできます。本記事1月30日で解説した「DXが変える医師の働き方」を実現できることになるわけです。
人気がでるのは、各分野の専門医への相談(セカンドオピニオン相談)、特にメンタルヘルス相談、がん治療、糖尿病を含んだ生活習慣病の治療、婦人科系治療などの分野での名医への相談あたりになるのではないでしょうか。
他にも医師でなくても、どんな「リモートビジネス」にもチャンスはあります。「パーソナライズエクササイズ指導」も可能です。
つまり、オンライン医療という分野に幅広い、Bigな「品ぞろえ」ができるようになります。選ぶのは患者次第ですから、最高級の医師やプロフェッショナルな人材との相談の機会を得ることができるはずです。
Think Future
デジタルコンテンツは同時翻訳ができる時代になります。そうなると、日本語の動画だけでなく、同時翻訳されたコンテンツが喜ばれるようになるでしょう。言語の垣根を越えグローバルコンテンツを楽しめるようになってくるはずです。
情報発信も、場所を問わずにできるようになります。リモートMRも、海外の外国人医師へ日本在住のMRから営業活動ができるようになります。例えば、インドネシアのような島国で活動が難しいエリアでも、その土地の言語が話せるMRが日本にいて情報提供活動ができます。グローバル市場を狙う製薬企業にとっては大きなメリットがある仕組みになるはずです。その意味では、本IT事業は将来の「輸出産業」となれるのではと期待しています
Be preeminent Giver
私たちは、独創性を重んじることで高い目標をもち、公明正大に事業を行い、正しい価値を再発明し、それを提供していくPreeminent Giver(傑出したギバー)になりたいと考えております。
混沌とした現代において、このような「独立自尊」の精神を遂行できるかどうかは不明です。ですが、日本のITの未来は、そうした医療に携わり現場を大切にする優秀な人材と製薬業者との人間関係などを根本から見直しをかける「マインドチェンジ」ができるかどうか、一人一人の意識革命にかかっていると信じています。
鈴木吉彦
1957年山形県生まれ。83年慶大医学部卒。東京都済生会中央病院で糖尿病治療を専門に研さんを積む。 その後、国立栄養研究所、日本医科大学老人病研究所(元客員教授)などを経て、現在はHDCアトラスクリニック(東京・千代田)の院長として診療にあたる。
https://style.nikkei.com/article/DGXZQOLM10915010052022000000