アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は3日、生成系AIサービス「Amazon Bedrock」を、東京リージョンで提供を開始すると発表した。今後数日で利用できるようになるという。

 Amazon Bedrockは2023年4月に発表され、一部企業での先行利用が行われてきた。9月29日には一般公開することを発表している。AIで記事を要約する(β)

 米Amazon Web Services(AWS) Vice President of Generative AIのヴァシ・フィロミン氏は、「日本の企業にも、より簡単に、セキュアな環境で、高いコスト効率で、生成系AIを使ってもらえるようになる。東京リージョンでの提供により、日本の金融、通信、医療分野の企業がデータをローカルで利用でき、低遅延の環境で生成AIを利用できる」と述べた。

米AWS Vice President of Generative AIのヴァシ・フィロミン氏

 Amazon Bedrockは、AI21 LabsやAnthropic、Cohere、Stability AIなどの基盤モデルを選択できるフルマネージドサービスで、プライバシーとセキュリティを維持しながら、生成系 AI アプリケーションの開発を簡素化する幅広い機能群を提供している。新たに、MetaのLlama 2を近日中に利用できるようにすることも発表している。

Amazon Bedrock

 ビデオメッセージを寄せたAnthropicのダリオ・アモディ共同創業者兼CEOは、「CLAUDE は、Amazon Bedrockの基幹LLMである。Amazon Bedrockが東京リージョンで提供を開始することで、日本のお客さまと最先端の技術を駆使して仕事ができることをうれしく思う。日本語を含む多くの言語でテキストデータを処理でき、業界随一の10万トークンのコンテキストが扱える。これは約200ページの大量データをアップロードできることを意味している。金融、法律、医療などの分野でも応用され、自然に会話が可能になるため、サポートセンターや問い合わせ窓口でも利用できる。企業が持つ大切なデータを使用し、自社のためにカスタマイズした安全な生成AIの利用を支援できる。東京リージョンから、低遅延で、コスト効率に優れたサービスを利用できることを歓迎している」と述べた。

Anthropicのダリオ・アモディ共同創業者兼CEO

 また、Stability AI 日本代表であるジェリー・チー氏は、「Amazon Bedrockにより、Stability Diffusionを活用することでさまざまなメリットが生まれる。特に、サーバーレスのメリットは大きく、GPUの用意や管理が不要で、生成系AIを利用できるようになる。今後は画像生成モデルを進化させ、画像からテキストを生成することができるようにし、これを日本語でも利用できるようにする。また、音楽や音も生成できるように進化させる。さまざまなAIモデルをAmazon Bedrockに搭載していく」と語った。

Stability AI 日本代表、ジェリー・チー氏

 米Amazon Web Servicesのフィロミン氏は、Amazon Bedrockに関連した具体的なサービスについても説明した。

 ひとつめは、Agents for Amazon Bedrockである。わずか数クリックで生成系AIアプリケーションに必要なタスクを完了できるサービスで、チャットボットとして活用する際にも、顧客データや外部のデータを活用し、カスタマイズしたり最新の情報にアクセスしたりすることで、より正確な回答をすることができるという。

 「お客さまのデータを使って、基盤モデルを独自にカスタマイズできる。また、コンタクトセンターでは、問い合わせ内容を判断して、相手の気持ちを判断したり、どの点を問題にしているのかといったことを理解したりすることで、最適な対応ができるようになる」と述べた。

Agents for Amazon Bedrock

 また、Amazon Bedrockでは顧客データが基盤モデルの学習に利用されることがない点、すべてのデータが暗号化されて転送・保存されること、GDPR(EU一般データ保護規則)にも対応していること、エンタープライズグレードのセキュリティを実現していることなどを強調した。

Amazon Bedrockでは、顧客のデータはプライベートかつセキュア

 さらに、AWS Trainiumを活用することで、トレーニングコストを最大50%削減できるほか、AWS Inferentia2では最大40%高いコストパフォーマンスを実現できることを示し、「モデル学習とモデル推論を実行する際に、最も低いコストを実現できる」と語った。

生成系AIのためのアクセラレーター

 2つめは、Amazon CodeWhispererである。AIコーディングコンパニオンと位置づけられるサービスで、より速く、より安全にAIアプリケーションを構築することができる。すでに一般提供を開始しており、個人向けは無料利用ができる。

 「ソフトウェア開発者は、単純なコードを書くために時間を費やされ、革新的な機能やサービスを開発する時間がなくなっている。生成系AIはこうした課題を解決することができる。開発者は、生産性を高め、クリエイティブな部分に時間を使うことができる」と述べた。

Amazon CodeWhisperer

 また、Amazon CodeWhisperer customization capabilityは、社内のコードベースやリソースを活用して、組織固有の推奨コードを生成する。今後、CodeWhisperer Enterprise Tierの一部として、プレビュー版を提供していくことになるという。

Amazon CodeWhisperer customization capability

 一方、フィロミン氏は、日本の企業に生成系AIを活用してもらうために、3つのステップを歩むことを提言した。

 「正しいユースケースを選択」、「さまざまなトレーニングの機会を活用し、あらゆるスキルレベルのデベロッパーをスキルアップ」、「Amazon Bedrockで基盤モデルを検討し、ユースケースのPOCを始める」という3点であり、「データこそが、お客さまの『ビジネスを知るAI』を生み出すベースになる。また、日本の企業にAIが浸透すると、それに伴い、さまざまな課題が生まれることになるだろう。それを解決できるAI人材への投資がいまから重要となる。さらに、ユースケースをもとに、PoCを行い、テクノロジーを試してみることが大切である」と述べた。

生成系AI活用のための3つのステップ

 なおAWSジャパンでは、2017年以降、クラウドスキルに関する教育を、日本において50万人以上に実施していることに触れる一方、すでにAmazon Bedrockのトレーニングに関する日本語コースや自習型コースを用意していることを紹介。生成系AIに関する人材不足の解決にも貢献していく姿勢を示した。

 フィロミン氏は、「われわれは、今後数十年に渡って続く、技術的革新の初期ステージにいる。AWSは、その進化を長期的視点でとらえており、今回のAmazon Bedrockの日本市場での展開を楽しみにしている」と述べた。

Amazon Bedrockを先行利用した日本企業の事例

 このほか今回は、Amazon Bedrockを先行利用した日本の企業として、竹中工務店とKDDIが、その取り組みについて説明した。

 竹中工務店では、2023年6月からAmazon Bedrockの試行を開始。文章の要約や分類、チャットによる対話、コード生成、画像生成といった領域での試行のほか、「デジタル棟梁」を構築し、経験や実績、技術に関する専門的知識を持ち、若手社員へのアドバイスや相談に乗ることができるようにする計画を示した。

 竹中工務店 執行役員 デジタル室長の岩下敬三氏は、「生成系AIの条件として、安全、安心に使えるもの、利用用途に対応したカスタマイズがしやすいこと、社内ナレッジを継続的に蓄積できる持続的な基盤であることを求めた。Amazon Bedrockは、これに対応できる可能性があると考え、先行利用に取り組んだ」という。

竹中工務店 執行役員 デジタル室長の岩下敬三氏

 プレスリリースをplayground を使って要約させ、異なる基盤モデルの特徴を把握したり、AWSのサービスと組み合わせてRAG(Retrieval Augmented Generation)を実装し、自社の業務ルールや保有技術などの専門知識を持たせる試行を行ったりしたという。

 「暑中コンクリートの打設について留意点を具体的に示してほしい」というプロンプトに対して、RAGプロトタイプは、数値などの具体的な説明を加えて回答するという成果があったとする。

生成系AIへの企業固有の情報の追加

 また、「Amazon Bedrockは、複数の生成系AI基盤モデルが用意されており、モデルの評価や選択が容易であること、サーバーレスのため利用環境の構築が容易であること、AWSのマネージドサービスであるため、既存のAWSのサービスと連携させて、目的にあったAIシステムが作りやすいというメリットがある。企業の業務にフィットさせることができる可能性を感じた」と述べた。

 竹中工務店は、建設事業のデジタル変革として「Building4.0」を2019年から推進。2021年から建設デジタルプラットフォームの構築、活用を開始している。「建設業界は労働生産性が低く、建設技能労働者の減少や、改正労働基準法適用による年間総労働時間の上限規制への対応といった課題がある。Building4.0により、業務と事業をデジタル化し、建築事業の事業効率向上と、建築・まちづくりの新しいサービスの創出に取り組んでいる」という。

 同社では、生成系AIにより、デジタルによるベテランの知識、経験の継承と、デジタルによる人材育成に活用することを目指すとしている。

デジタル化の取り組み

 KDDIでは、2023年9月にAWSとの連携を発表。これにより、生成AIの社会実装の加速に向けて、企業および自治体での生成AIの活用を包括的に支援するという。また、2023年10月からは、KDDI∞Laboを通じて、生成AIスタートアッププログラムを開始。KDDIグループのiretやKDDIアジャイル開発センター、FLYWHEELを通じて、AWSを活用したインフラ設計や構築、運用保守、データ活用基盤の提供、アジャイル開発を支援しているほか、AWS Activateを通じてスタートアップ企業のAI開発を支援している。

 また、KDDIでは、Amazon Bedrockにおいて、CLAUDE2を使用して、DX事業企画アプリ「ビジつく!」を開発し、開発ナレッジを蓄積した実績も公開した。さまざまなモデルを安価なコストで利用できること、なじみのあるAWSとの親和性が高く開発しやすいこと、汎用的なLLMライブラリを活用でき、開発工数を削減できたメリットなどがあったという。

KDDIにおけるAmazon Bedrockの取り組み

AWSとKDDIの目指す未来

 KDDI 執行役員 経営戦略本部長の門脇誠氏は、「生成AIは、ビジネスに欠かせないものであり、さまざまな基盤モデルを自由に選べる世界を実現することが大切である。KDDIとAWSが持つアセットやエコシステムを最大限活用するとともに、スタートアップ企業の創意工夫を組み合わせて、企業や自治体の課題を解決していく」と抱負を述べた。

KDDI 執行役員 経営戦略本部長の門脇誠氏

 一方、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの長崎忠雄社長は、「Amazonグループは25年以上に渡り、AIや機械学習の研究と投資を行い、パーソナライズしたレコメンデーションや、Alexaでのインタラクションといった顧客向けサービスのほか、物流倉庫でのAI搭載ロボットの活用といった社内業務でも実装してきた。これらの投資や経験はAWSの生成系AIソリューションを進化させることにつながっている。生成系AIは、デジタル社会において、顧客体験を数段持ち上げる可能性を持ったテクノロジーであり、イノベーションエンジンとして次の大きな波が来ていることを感じている」と語った。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表執行役員社長の長崎忠雄氏

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