研究開発のデジタル変革(DX)に伴い、産学連携にもDXが求められている。業界としてデータを蓄え、人工知能(AI)に学習させて活用する連携モデルが成功するようになってきた。半導体を先頭に産学連携の枠組みが同志国に広がりつつある。データ連携は有効だが、一度データを共有すると取り返しがつかないとされる。国際連携は国益が絡み合うため高度な戦略が必要になる。日刊工業新聞社が実施した研究開発(R&D)アンケートから産業界の声を紹介する。(小寺貴之)
「日本だけでは優良な先導研究は困難。海外の知見を積極的に取り入れる必要性が増している」(半導体)―。産業界が抱える危機感は大きい。先端技術の開発は一つの国だけでは成り立たなくなっている。地政学的な問題も重なり、同志国との連携強化が進んでいる。例えば5月のG7サミット(先進7カ国首脳会議)を機に、半導体や量子技術に対して米IBMとグーグル、マイクロンから日米の大学に2億1000万ドル(約300億円)の投資が発表された。
この大型投資はラーム・エマニュエル駐日米国大使が中心となり、政治主導で組成された。次の米国開催時には日本から相応の提案が求められることになる。今後、産学連携の国際化は加速する。
ただ、足元では苦労が多い。「データ連携は試行しているが、課題が多過ぎて進まない。まずは国内で連携事例を作るべきだ」(半導体材料)という声や「同志国といえども、各国が国益を考えた行動を取ることは間違いない。知的財産の確保や契約、情報管理はより大きな課題になる」(コンピューター・通信機器)などと懸念されている。
日本国内に限らず、連携のあり方を模索している段階だ。特にデータは研究開発型企業にとって競争力そのものになる。企業のデータを開示するのは極めてハードルが高い。
そこで大学などがデータをそろえ、そこに企業が集う連携モデルが注目されている。「大学がオープンデータを基に開発したAIを、産業界がカスタマイズして使用できると国際的な競争力向上につながる」(機械)などと期待される。材料やシステムの性能予測、プロセス最適化などにAIが使われ、成果を上げてきたためだ。企業のデータを公開せずに済む利点もある。
これを国際共同研究に広げるには大学などによる信頼性の高いデータと共有基盤の整備が必要になる。そして「欧州を中心に米国、中国もセキュリティー規制を理由にデータ資産の囲い込みを強化している。海外情報を一元的に共有・発信する連携環境を確保してほしい」(工作機械)という要望がある。データ連携の中心に大学などの研究者を据えつつも、産業政策や国際政治に通じたチームを編成して推進する必要がある。
ただ現状への認識は厳しい。「国際的な連携推進に異議はないが、国際化の前に国内の体制を実効あるものに一本化していただきたい。省庁と実務を担う管轄国研との間でも温度差を感じる。産業界が対応に苦慮するケースが多い」(化学)と指摘されている。
いずれにせよ、海外でデータ連携が産業政策の柱の一つとなり、政治主導で事態が動く可能性がある。日本としては、せめて国内で成功モデルを作らないと身動きがとれなくなる。この点、欧米主導で臨床試験などのルールが作られてきた製薬業界は見識が深い。
製薬からの解決策は三つだ。一つ目は同志国間で規制やデータの取得基準をそろえること。二つ目は産学官連携の立案時から同志国企業を巻き込む仕組みを作ること。三つ目は「現状の国内規制を基に同志国と何ができるのかを議論するのではなく、同志国と共に何をしたいのかを議論し、変えるべき規制は変える覚悟を持つこと」(製薬)。大学支援のための産学連携から、世界で戦うための産学連携に変えていく必要がある。
日刊工業新聞
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