昨今、リスキリングという言葉を新聞やネットニュースなどで目にすることが増えています。岸田政権は2022年10月、第210回臨時国会の中で「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明しました。それを支援するための助成制度も誕生しています。

 しかし話題になっている半面、思うように実施されていないのが実情。パーソル総合研究所の調査によると、新しいツールやスキル、知らない領域の知識などを学んだとする「一般的なリスキリング経験」のある人は3割前後にとどまっています。「一般的なリスキリング経験」のある人は3割前後(出所:パーソル総合研究所「リスキリングに関する調査」)

 筆者が顧問先の中小企業の担当者に、リスキリングを実施した企業に支給される助成金の制度について説明しても今一つ反応が薄い印象でした。そこで今回はリスキリングが進まない理由とその解決策について説明します。

リスキリングの必要性が叫ばれている背景

 リスキリングとは、働き方の変化によって今後新たに発生する業務で役立つスキルの習得を目的に、勉強してもらう取り組みです。その必要性について盛んに報じられるようになったのは、次の2つの理由があると思われます。

 一つは「中小企業における低い生産性の改善」のためです。日本人の給料がここ30年横ばいという問題が指摘されますが、その要因の一つとして考えられるのが中小企業のDXの遅れに伴う生産性の低さです。時間当たりの売上高が低ければ、社員に還元する原資を確保できません。

 ITツールを導入したくてもそれを使いこなせる人材がいないという悩みを抱えている中小企業は少なくないと思います。このような課題を解決するため、IT関連のスキルを持った人材を養成する必要があります。中小企業では人材育成が急務(画像はイメージ)

 もう一つは、「定年延長化に伴う学び直しの必要性」です。21年4月に高齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。今は努力義務であっても年金の支給年齢の引き上げに連動して義務化される可能性もあります。

 もしそうなれば、大半の人は20歳前後から70歳まで約50年間働くことになります。どの職種であれ、50年間同じスキルで働き続けるのは難しいでしょう。テクノロジーの進化に伴い自分の持つスキルの陳腐化は早まります。長い間仕事を続けるために、新たなスキルを身につけなければなりません。

 似た言葉としてリカレント教育というものがありますが、違うものです。リスキリングは企業が従業員に学ぶ機会を与えるものに対して、リカレント教育は社会に出てから一度仕事を離れ、大学などで教育を受け直してからまた仕事に戻るという本人の選択による循環を指すからです。

大手企業と中小企業でリスキリングの目的が異なる

 大企業と中小企業では、リスキリングを実施する目的が異なります。大企業では、定年の延長化に伴い人員の再配置や中年社員のモチベーションアップが主な目的となることが多いでしょう。優秀な人材が多い半面、出世コースから外れた中年社員が勤務意欲を失い、働かないおじさんに転落するケースも考えられます。

 こうした状況を解消するため、部門異動などに対応できる教育内容が求められます。本人のキャリアプランを練り上げるため、キャリアコンサルタントなどの専門家のカウセリングを受講させる企業もあります。

 一方、中小企業では生産性を向上させることが緊急の課題です。DXの遅れがその要因であれば、キャリアプランの再確認やキャリアコンサルティングなどは後回しにしてもよいのでITスキルの底上げにフォーカスすべきです。紙ベースでの発注作業から電子データへの移行、クラウドのデータ共有などを実現できるようスタッフ全員がメールを利用したり、サーバー上でデータのやりとりができるようにしたりすべきです。

効果を実感できない?

 企業は従業員に対してリスキリングを実施する際には、まず目的を明確にすべきです。何のためにリスキリングをするのか、その内容が曖昧であれば、お金と時間をかけても効果を実感できないでしょう。企業は、営利の追求を第一目的としており教育機関ではありません。実施しても営業利益に結びつかないのであれば、取り組むのを止めてしまいます。リスキリングが企業に浸透しないのは、その目的が曖昧だからと思われます。

 そのためには、特に中小企業に該当することですが、DXの前に業務フローを洗い出してみるのが先決かと思われます。最新のIT機器を導入し、それを使いこなせるような教育を実施してもその企業に合ったものでなければ効果が薄くなってしまうからです。今までやってきたという理由だけで続けている無駄な業務がないのか確認するのもいいでしょう。あるいは赤字になっている事業や得意先は思い切って止めてしまうのもありかもしれません。リスキリングを実施する際には、次のような順番で行うと効果があると思われます。

業務フローの洗い出し→課題の発見→DX計画策定→リスキリング→DX(ICT機器の導入)

 ここで重要なのは、DXは目的でなく手段の一つであると認識することです。ICT機器を導入すれば業務効率化につながるわけではありません。この点を理解しないでICT機器を導入したり、リスキリングを実施したりしても効果は得にくいです。

DXを進める上でリスキリングは必要か?

 では、従業員に対してリスキリングを実施すればDXは成功するのでしょうか? 成功に近づけるためには、不可欠だと考えています。ICT機器を導入したものの一部の社員以外に使いこなせないため、その社員に業務が集中してしまった。結果、嫌気をさして辞めてしまうなどといったケースがあるからです。

 DXを推進していく上で社員全般のITスキルの底上げを図る必要があります。なにも全員がプログラミングやマクロを組めるようになる必要はありません。メールに添付するデータの解凍や圧縮ができる、エクセルの関数の知識がある、共有サーバーやクラウド上でデータをやりとりできるレベルのPCスキルを身に付けるだけである程度変わると思います。中小企業の場合は、予算や時間も限られていますので目的を明確にした上で実施すべき内容を絞るのが効果的です。キャリアプランの構築といった抽象的な内容や漠然としたスキルアップを図るようなことは避けるべきです。https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2301/10/news021.html

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