MONOistでは2022年11月17~18日にオンラインセミナー「サプライチェーンの革新~資材高騰・部品不足に対するレジリエンスとは~」を開催。その基調講演としてカシオ計算機 デジタル統轄部 シニアオフィサーで開発・生産改革担当の矢澤篤志氏が「製造業を取り巻くサプライチェーン課題と今、とりくむべき調達DXについて」をテーマに、同社のサプライチェーン変革への取り組みについて説明した。本稿では同講演と講演後のインタビューの内容を紹介する。photoカシオ計算機 デジタル統轄部 シニアオフィサーで開発・生産改革担当の矢澤篤志氏

調達領域で増す不透明感とサプライチェーン改革

 製造業のサプライチェーンの課題について矢澤氏は「コロナ禍で大きく拡大した」と指摘する。コロナ禍以前は調達は比較的安定しており、生産/調達部門が重視していたのは原価低減やリードタイムの短縮、安定調達などであった。業務的にも社内でのやりとりを中心としており、ITシステムとしてもERP(Enterprise Resource Planning)システムを活用するケースがほとんどだった。一方で、外部との連携が必要な調達業務については、デジタル化の空白地帯となっており、メールやExcelでの業務が中心となっていた。

 これがコロナ禍により大きく変わった。ロックダウンによる生産停止やそれに伴う調達の停止や変更、製造拠点の調整や変更、また付随して起こった半導体の調達難や原材料の高騰、為替の急変動などが起こり、対応を迫られるようになった。半導体などの部材確保を最優先とする一方で、可能な限り在庫は抑えることが求められ、難しいかじ取りが必要となった。一方で、急激な変化が頻発する中で従来以上のBCP(事業継続計画)対応が求められるようになった。矢澤氏は「レジリエンス(しなやかな強さ、課題への対応力や回復力)が従来以上に求められるようになってきた」と語る。

 こうした変化に対応するには、調達に関わるさまざまなシステムが社内外で連携できることが望ましいが、この領域は「デジタル化の空白地帯」となっており、それも難しい。「社内のサプライチェーン、エンジニアリングチェーンに関わる領域は個々の業務でのシステム化は進んでいるが、サイロ化が進んでおり個別最適なプロセスになっている。一方、社外に目を向けると日本のモノづくりは多くの中小企業に支えられているが、個々の状況が異なるために全ての企業と共通のシステム仕様で連携していくことが難しく、従来ながらのメールや電話での対応となっている。個々で手を打つのが難しい状況だ」と矢澤氏は課題について述べている。

4つの柱で進めるカシオ計算機のDX

 そこでカシオ計算機では、調達領域でのDXを進め、こうした課題の抜本的解決に取り組むこととした。もともとカシオ計算機では現在、あらゆる業務のDXを推進しているところで、共通テーマとして「一人一人のユーザーに向き合う事業変革の実現」を掲げており、営業領域、開発領域、生産領域が協力する形でプロジェクトを推進している。具体的には「営業改革」「サプライチェーン改革」「PLM改革」「スマートファクトリー」という4つの柱で改革を進めている。

 調達やサプライチェーンに関わる領域では3つのポイントでDXを推進している。まず前提として、各プロセスがシステム的に連携できるような形となっていない現在のエンジニアリングチェーンとサプライチェーンにおいて、各プロセス改革を進めるとともに、シームレスな連携を前提としたデジタル化を進める。

 次に、設計開発と生産の連携を強化し、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの緊密な連携を実現できるようにする。具体的には、3Dデータの活用や部品表の統合などを進めていく。3Dシミュレーションの活用など、実際にモノづくりを行う前にある程度の生産課題を解決するフロントローディング化を進める。

 さらにこうした取り組みの効果をパートナー領域にまで広げ、取引先も含めたモノづくりの抜本的な効率化を目指す。「製造業にとって、調達領域は利益の源泉だ。コストや品質、リードタイムを抜本的に変えるチャンスとなる」と矢澤氏は述べている。

統合基盤を構築したサプライチェーン改革

 ただ、従来のやり方が染みついた中で変革を進めていくことは簡単なことではない。例えば、サプライチェーンでシステム連携を進めようとしても現状では、調達、物流、生産、販売それぞれで別のERPシステムを使っており、各プロセスでの標準化や最適化は進められていても、連携については都度連絡を行うバッチ的処理で行われていた。「リアルタイムの連携はできていなかった」(矢澤氏)。そのため、変化に合わせた迅速な対応は難しい状況があった。また、パートナー(サプライヤー)とのやりとりは、メールや電話が中心で、人手を介さなければ行えない状態となっていた。

 そこで、こうしたプロセス間、システム間、そしてパートナーとの間の情報連携を円滑に行うための共通プラットフォームを構築。「Casio Supplychain Collaborative Platform(CSCP)」として、その基盤を通じてあらゆるサプライチェーン情報が統合管理できるようにし、効率化を実現したという。

 この統合基盤では、社内の各プロセスのERPから情報を集約するとともにこれらの情報を基に、パートナーとの発注書や注文書のやりとりや納期回答などを行えるようにしている。また、現在は取り組み段階だが、製品設計段階でサプライヤーから関連部品や金型の見積もりを取ったり、注文書や検収情報をもらったりするような領域についても、この基盤上から行えるように現在プロジェクトを進めているという。矢澤氏は「われわれも多くの中小企業を含むパートナーに支えられてモノづくりをしている。パートナーに負担なくこうしたデジタル化が進められるように工夫をしながら進めている」と語っている。

部品表統合などを進めたエンジニアリングチェーン改革

 エンジニアリングチェーンでは、開発設計領域と生産領域でそれぞれシステム化は進んでいたが、連携できる形にはなっていなかった。これらを一貫して情報連携が進められるように体制面、システム面での変革を進めた。

 まず設計開発領域で、開発プロセスの標準化とCADデータ活用の強化を推進した。CADについては、従来は2系統に分かれていたのを1つに統合した。また、従来は設計領域のみであったのを、資材や生産技術領域でも3Dデータを活用するようにした。これにより、3Dデータを基軸に材料を検証するCAEや製品の組み立て検証、設備設計と検証など、フロントローディング化を進められるようにした。

 また、設計部門と生産部門の連携では、従来は個別で分かれていたBOM(部品表)を統合し、グローバルで設計情報から生産情報までの一元管理を実現できるようにした。上流の設計段階で資材部門がBOM情報を活用して取引先まで部品や金型の見積もりを行えるようにした。これをCSCPと連携することでパートナーに問い合わせるまでの流れを一元的に行えるようになる。これらは2023年1月から順次リリースしていくという。

VUCAの時代に対応する単純さを生み出すためのデジタル化

 製造業にとって、ここ数年のさまざまな動きは予測できないものが多く、サプライチェーンの担当者はその矢面に立たされる存在となっている。矢澤氏は「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代だからこそ、その逆の安定性、確実性、単純性、明確性を確保するためにどうするかを考えるべきだ」と訴える。そして「外的変化を前提とした変化に強い現場を作るためにDXを進めるべきだ」(矢澤氏)と強調する。

 さらに「変化への対応については従来はサプライチェーン領域のみで捉えられてきた面がある。ただ、半導体を考えても、安定して調達できた時代はそれほど考えなくてもよかったが、調達期間が半年や1年を超えるような状況になると、エンジニアリングチェーンとの緊密な連携が必要になり、経営判断が必要な場面も出てくる。事業そのものと一緒に考えないと解決できない」と矢澤氏は、より幅広い範囲での情報連携の必要性について語る。

 その上で有事と平時のどちらでも通用する仕組み作りを進めていく。「サプライチェーンについては、いまだに手作業の領域が多く残されているのでその排除を進め、データ全体をつなぐ。サプライチェーンを一気通貫でデジタル化し、現場での意思決定と行動の迅速化を図る。また、パートナーも含めたデジタル化の在り方を考えていく」と矢澤氏は考えを述べている。https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2301/10/news038.html

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