オンラインの請求書支払いサービスを提供する「Doxo」は、創業から3年間で3回の資金調達を行ったが、その後成長が停滞し、投資家の関心が薄れていった。同社CEOのSteve Shiversは、不利な出資契約にサインすることはせず、事業を再び軌道に乗せるまでベンチャーキャピタルからの出資を拒むことにした。
シアトル本拠のDoxoは3月16日、Jackson Square Venturesが主導するシリーズCラウンドで1850万ドル(約22億円)を調達したことを明らかにした。これは、同社にとって11年ぶりの資金調達となる。このステージの調達額としては小規模だが、Shiversは10年間自己資金で事業を運営したことで、資金調達に保守的になったという。
彼は、株式の希薄化を押さえるため、意図的に調達額を少なくした。仮にVCからの出資が再び途絶えても、自己資金で会社を持続させる自信があるからだ。Doxoは、2020年に黒字化し、今では年間収益が4000万ドルを上回る。「24カ月以内に1億ドルを超えるだろう」とShiversは述べた。
Shiversは、Doxoの最新の評価額は前回ラウンドの5倍以上だと述べたが、詳細は明らかにしなかった。調査会社ピッチブックは、新しい評価額を1億1900万ドルとしているが、Shiversによると、実際の額はもっと大きいという。いずれにせよ、Doxoの評価額が、一部の大型テック企業のように収益の10倍以上になる可能性は低いだろう。
「理屈で説明できないほど高い評価を得た企業の中には、それを活かして身売りやIPOをしたケースがあるが、その結果、投資家が大きな不満を抱えている場合もある」とShiversは言う。
「VCから出資を受けたCEOは、評価額に追いつくよう事業を成長させるか、我々のようにその反対のアプローチを取ることもできる」とShiversは言う。彼は、過去4年間でVCからのオファーを2度断ったという。その理由は、条件があまりにも一方的だったからだ。
「我々は待った結果、同等かそれ以上の資金を、より少ない希薄化で調達することができた」とShiversは話す。その間、Doxoが事業再生の過程で立ち上げた新規ビジネスが軌道に乗り、売上高は同社がそれまでに調達した総額である2900万ドルを上回ったという。
株式の希薄化を防ぐ選択
Doxoは、消費者向けのオールインワン型請求書管理プラットフォームとして2008年に設立された。料金体系は、請求書ごとの課金か、無制限でサービスが利用できる月額サブスクリプションとなっている。成長の停滞を受け、同社は2011年に実施したシリーズBラウンド以降に採用を減らし、新製品のテストに取り組んだ。
「我々に与えられた選択肢は、無駄を省いて資本効率を高めるか、本来の実力に見合わない評価額で増資して株式を希薄化するかだった」とShiversは話す。Doxoは、2015年に電力会社や医療機関向けにBtoBソフトウェア製品をリリースした。
Shiversによると、2018年からこの新サービスが軌道に乗り始めた結果、収益が10倍に増えたという。現在では、12万社以上の請求書をDoxo経由で支払うことが可能だ。顧客の大半を占める中小企業は、これまで紙の請求書を発行していたが、Doxoを利用することで業務の効率化が図れている。
同社は、シリーズCで調達した資金の大部分を、この事業の拡大に充当し、人員を少なくとも現状の2倍の200名に増員する計画だ。採用するのは、新規顧客を獲得する営業担当や、IT部門を持たない企業でも簡単にデータを扱えるよう、ソフトウェアの機能強化を行うエンジニアだという。
現在、Doxoは収益性よりも成長を優先させているが、必要に応じてキャッシュフローを黒字に戻すことが可能だとShiversは考えている。このことは、普通株式を対象とするストックオプションを付与された新入社員にとって重要な意味を持つ。
Better.comのように多額の資金を調達した企業の場合、業績が悪化すると、優先株を保有するベンチャーキャピタルの方が、普通株の株主よりも優先的にリターンを受け取れる。そうなると普通株はインセンティブの役割を果たさなくなり、社員のモチベーションが奪われる。「当社の場合はそのような心配とは無縁だ」と彼は述べた。
https://forbesjapan.com/articles/detail/46534/2/1/1