島津製作所は、同社子会社の島津メディカルシステムズで行われていた保守点検業務に関する不正行為の内容について、外部調査委員会による調査結果を発表した。島津メディカルシステムズ熊本営業所では、タイマーにより意図的に装置が故障したかのように見せかけ、保守部品を売るという不適切行為が行われていたことが2022年9月に発覚している。

2023年02月15日 07時30分 公開[三島一孝MONOist]

島津製作所は2023年2月10日、同社子会社の島津メディカルシステムズ(以下、島津メディカル)で行われていた保守点検業務に関する不正行為の内容について、外部調査委員会による調査結果を発表した。

タイマーによりX線装置が壊れたように見せかける

 島津製作所では内部通報を受け、2022年5月から社内調査を開始。2022年9月に外部調査委員会を設置し、調査を行ってきた。関係者へのヒアリングやデジタルフォレンジック調査の結果、7人の嫌疑濃厚者を特定し5件の医療機関に対する不正行為を確認した。

 2022年9月に発覚した不正行為は非常に悪質なものだ。島津メディカル熊本営業所に所属するサービス技術者が、2016~2018年にかけて行っていたもので、まず熊本県内の5つの医療機関に納入したX線装置の保守点検の際に、電力供給回路に不正に外付けタイマーを取り付けた。このタイマーを作動させることで、一定期間経過後に意図的にエラーを発生させてX線装置が故障であるかのように装い、保守(補修)部品の交換を有償で行っていたという。

 具体的には、保守点検の際に、X線装置のスタータから電力を供給する回路の途中に外付けタイマーを介入させることで、設定した時間が経過すると電力供給を停止させた。X線高電圧装置からX線管装置への高電圧の電力供給がされないため、X線の照射ができなくなる。X線装置が稼働しなくなると、医療機関から島津メディカルに一報が入り、この連絡を受けて、島津メディカルのサービス技術者が訪問し、X線装置を点検し、タイマーを回収すると共に「部品の故障による不具合発生である」と説明し、医療機関を誤信させ、有償交換に応じさせる。不正にタイマーを設置した箇所(赤×)[クリックで拡大] 出所:島津製作所

 不正行為で不具合が偽装されたのは、X線管装置の主要部品の一つであるX線管かX線高電圧装置のいずれかだった。いずれも数年間から10年間程度の一定期間の使用により、消耗や経年劣化などで使用できなくなり交換が必要となる部品だ。有償交換の場合、100万~300万円となる。不正の流れは以下の通りだ。

  1. サービス技術者が保守点検などの目的で医療機関を訪問し、医療機関の関係者が立ち会わない状況で外付けタイマーを設置する
  2. 使用される外付けタイマーは容易に購入することができる汎用品であり、その代表的な設定時間は最大999時間(約42日)だった
  3. 設定から10~40日後にタイマーが作動し、X線装置の電力供給が遮断されるようになる
  4. X線装置が稼働しなくなり、医療機関から島津メディカルに連絡が入り、サービス技術者は医療機関に訪問し不具合有無の点検を行い、その際にタイマーを回収しつつ、「X線管やX線高電圧装置が故障したことが原因だ」と報告し、有償交換を行う

7人のサービス技術者が関わり合計43件が補償相当に

 外部調査委員会では、事前の社内調査で得られた記録や資料、電子メールや社内ファイルサーバなどに対するデジタルフォレンジック調査、島津メディカル全社員に対するアンケート調査、島津製作所の医用機器事業部に対するアンケート調査、その他取引記録などから、不正行為の広がりについて調査を進めた。

 その結果、7人のサービス技術者を嫌疑濃厚者として特定。7人の中で5人は、九州支店の熊本、宮崎、鹿児島、佐世保出張所にて営業所長の地位にある管理職クラスのサービス技術者だった。残りの2人は、上司である営業所長の影響下で不正行為を実行していたとみられる。これらの不正行為はタイマーの証拠隠滅などが可能であることから広がりの把握は難しいが、調査の結果、補償相当事案は以下の通りとしている。補償案件[クリックで拡大] 出所:島津製作所

不正の発生要因

 調査報告書では、不正の原因や再発防止策についても言及している。不正が発生する要因としては「動機」「機会」「正当化」の3つの観点で分析されるケースが多いが、今回はそこに個人の属性を踏まえた「実行可能性」も含めた4点での分析が行われた。

不正が生まれた「動機」

 「動機」として、外部調査委員会が結論付けたのが、業績達成への過度なプレッシャーだ。

 前提事情として、本件不正行為により顧客に生ずる直接的な被害額は大半の事案で100万~300万円程度と相当に多額であるが、不正行為者らは本件不正行為によって直接的な金銭的利益を個人的に得るわけではない。

 それにもかかわらず、これらの不正行為者らが本件不正行為に及んでまで業績目標を達成しようとした要因は、(i)島津メディカルにおいて技術部門に課されていた業績目標の設定方法等に不合理な点があった上、(ii)殊に九州地区の一部地域においては、各営業所に厳しい業績目標が割り当てられ、その達成がときには強い業務上の圧力を伴って求められ、(iii)不正行為者らがこうしたプレッシャーにさらされていたことがあったのではないかと指摘できる。(調査報告書から引用)

 島津メディカルにおける技術部門の役割は、もともとは医療機器などにダウンタイムを生じさせないように保守を行ったり、故障などの不具合が生じた場合に対応したりする部署だった。そのため売り上げ目標などは設定されていなかった。しかし、九州地区における組織変更の際に技術部門にも個別の業績目標が設定されるようになった。当初は保守契約のみの目標だったが次第に修理や点検、営業部門からの請負、部品販売の業績目標項目が設定されるようになったという。妥当性がない前期比増の目標が毎年設定され、現場のサービス技術者は苦しんでいた背景があった。

 さらに、九州地区の営業所ではこれらの「無理な目標」の達成に対して、強いプレッシャーがかけられていたことも確認できた。そのため、一部のサービス技術者が事後交換のために部品の故障を偽ろうと本件不正行為に及んだとしている。

不正につながる「機会」

 不正は動機があってもその機会がなければ生まれない。その「機会」として、外部調査委員会は顧客や他の従業員などに発覚したり内部通報されたりする恐れが非常に低かったということ挙げている。

 今回の不正行為は、通常の保守点検などの作業に紛れ込ませて、タイマーを設置し、作動後にこれを撤去するという点が主なもので、その作業自体は比較的短時間に、かつ、目立たない形で実行可能であり、もともと発覚リスクが低い。さらに、これら外部のサービス技術者による訪問や作業の際には、医療機器が使用できなくなるため、通常の診療業務の支障にならないよう、診療時間外や休診日に行われることが多い。そのため、結果として作業は人目が少ない機会に行われることが多くなる。

 また、顧客は島津製作所の医療機器を導入/設置しており、島津メディカルと保守契約を締結している関係にもあることから、島津メディカルのサービス技術者に対して深い信頼を寄せている。不具合などが発生した場合にも他社に相談するのではなく、島津メディカルの営業所に連絡をするため、タイマーを仕掛けているところに第三者が介入し、不正が見破られる可能性が低い。不正の「機会」が容易に確保可能であったといえる。

 加えて、内部統制が機能しがたい環境でもあった。島津製作所および島津メディカルでは内部統制システムが全般的には構築/運用されていたが、今回のような不正行為やその兆候が過去に認識されたことはなく、同業他社での発生もなく、具体的なリスクとして想定されていなかった。

 また、嫌疑濃厚者以外のサービス技術者の一部も不正行為を直接的に認識していたものの、不正のあった地域では人事異動の流動性が低く、営業所長が自ら不正を働いており、報復人事がされるのではないかといった危惧が蔓延(まんえん)しており、不正行為が見て見ぬ振りをされ続けたとしている。

不正を「正当化」する思考

 不正を実行に移すためにはこうした不正行為を自己内で正当化する理由付けが必要になる。その「正当化」については、「動機」と同様「過度な業績目標を達成するためには不正を働くしかない」という思考と、さらに「患者の健康に影響を与えないからよい」ということを逃げ道としていたと、調査報告書では指摘している。

 嫌疑濃厚者の心理状態も多様であり、不合理な弁解を繰り返したり、ヒアリング自体を拒否したりした者もいれば、本件不正行為が顧客の信頼を裏切る詐欺的行為であることを自覚し、深く良心の呵責を感じていた者もいるようであった。しかし、そのようなサービス技術者も結局は、上司からの過度な業績目標達成圧力から逃避するには本件不正行為に及ぶほかないという思いや、患者に深刻な健康被害が生じないような方法を選択しているという思いのもと、本件不正行為に及んでいたようである。(調査報告書から引用)

不正を結局行ってしまう「実行可能性」
 今回の不正はここまでの「動機」「機会」「正当化」の3つの観点だけで考えると、他の地域でも不正が起こっても不思議ではない状況だった。しかし、実際には不正が発生したのは九州支店の一部地域に限定されていた。3要素による「不正の扉」が組織内に存在したとしても、それだけでは不正が実行されるとは限らず、最終的に実行者が扉を開けて不正に及ぶかどうかは、個人レベルでの能力や性格による「実行可能性」にも依存するとしている。
 不正があった熊本、宮崎、鹿児島、長崎でも、不正に手を染めたサービス技術者もいれば、不正を実行せず、あるいは不正を告発したサービス技術者もいた。島津メディカルのサービス技術者の多くは、本件不正行為を実行することなど思い付きもせず、あぜんとしたようである。なぜこのような愚行にでたのか想像もできないとの声も多かった。(調査報告書から引用)
 具体的にはその「実行可能性」として外部調査委員会が指摘したのが以下の3点だ。
社内的に影響力ある地位や職能を有していたこと
内部統制の限界を見抜き、かつ長期間不正は暴かれないという自信、ストレス耐性を有していたこと
倫理観を著しく欠いていたこと
 今回、不正に手を染めた嫌疑濃厚者の大半は営業所長であり、管理職が自ら不正を働いたことから、営業所内で監視が効かない環境が生まれていた。管理職が倫理観を欠き、さらには相互監視を受けないまま社内的に影響力のある地位や職能を有してしまうと、個人レベルでの実行可能性が備わってしまう。また、今回の不正行為は長期にわたり、繰り返し行われてきたことから、不正行為を直接目撃したり、そのうわさを耳にしたりしたことがある島津メディカルの従業員はそれなりの人数がいた。その中でも不正を繰り返せる人間性の問題などもあったとしている。
 本件における不正行為者は、部下や同僚に発覚したとしても、内部通報等をしないであろうという内部統制の限界に気づいており、また、いつ発覚するか分からない不安定な状況にもかかわらず不正を行い続けることができる、一定のストレス耐性と不誠実さを有していたと考えられる。他者を引き込み、不正行為に加担するよう強要できる傲慢さや不誠実さなどの人格面での特性もあったはずである。逆に、内部統制の限界に気づいていても一定のストレス耐性と不誠実さを有していない者は、不正行為にまで及ばなかったと考えられる(調査報告書から引用)
不正の再発防止策
 調査報告書では最後に島津製作所と島津メディカルのプロジェクトメンバーとの議論を経て、再発防止策についても提言している。具体的には「ミッションの定義と業務評価体系の再設計」「管理職の強化」「内部統制機能の強化」の3つを柱として進めていくべきだとしている。
 今回の不正の動機が「サービス技術者に対する業績評価指標が合理性を欠いていたこと」によることから、これらを再設計する必要性を訴える。具体的には、まず目下の対応として、業績目標から部品販売を除外し、サービス技術者の評価においても部品販売の実績を考慮外とする。現状では事前交換と事後交換を区別することなく、両者をまとめて部品販売として業績目標の設定をしており、サービス技術者がコントロール不可能な事後交換が評価項目となってしまっている点で、合理性を欠いているためだ。
 その上で、組織や個人のミッションを明確にし、その期待役割に即した業績評価や業務評価の体系を再構築する。島津メディカルがいかなるミッションを担うのか、技術部門のミッションは何か、支店長や副支店長、ブロック長、営業所長などの管理職クラスのミッションは何か、サービス技術者のミッションは何か、それぞれの期待役割を明確にし、その期待役割に即した合理的な業績評価や業務評価の体系の具体化に取り組む。
 実態と乖離した目標設定となっていないか、目標達成のための過度な圧力が生じているようなことはないか、従業員の意識調査の結果はどうかなど、取締役会や経営陣幹部として運用状況をモニタリングすることも必須である(調査報告書から引用)
 管理職については、コンプライアンス意識の醸成や内部統制の知識についての研修を充実させる。内部統制機能の強化については、事業部門、管理部門、内部監査の3つのラインでのモニタリング強化を進める。合わせてITへの投資も強化する。現状では、販売管理システム、業務管理システム、在庫管理システム、経費システム等が完全に相互連携しているわけではない。これらのシステムが連携することで、現場で何が起きているのか、直ちに情報を収集することができ、経営分析や不正の兆候探知のために活用できるとしている。
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2302/15/news048.html

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