DX専門組織をいかに立ち上げていくか
 まず本記事では、実際にDX専門組織を組閣し、立ち上げていく際に、どのような手順とアプローチで効率的・効果的に進めていくべきかについて、2回に渡り具体的に解説します。既存のIT部門とは、「目的や狙い、業務部門を支援する領域」が異なるDX専門組織を、着実に、また、盤石な形で立ち上げるには、単にリソースを収集するだけではなく、意思と戦略を持って一つひとつのタスクを計画的に進めていくことが肝要です。特に、3カ月程度の短期間でDX専門組織を垂直立ち上げする場合はなおさらです。立ち上げのアプローチとしては、「1.あるべき姿の明確化」「2.企画・設計」「3.運用準備」「4.DX専門組織 試行運用」「5.DX専門組織 本格運用」の5段階の手続きを推進することを推奨します。1.あるべき姿の明確化
 DX専門組織の組閣を意思決定したら、最初に「DX専門組織のあるべき姿」を明確化します。どんな組織体でも、その組織の「存在意義」をまず定義しないと、参画メンバーの意識統一がままならず、今後の活動にブレが生じる可能性が高くなります。
「(1)DX専門組織の位置づけ明確化」
ここで改めて、自社の中期経営計画やビジネス視点の全社戦略をしっかりと確認・把握します。その後、DX専門組織の「ビジョン・方針の明確化」を行います。組織の存在意義や方向性を言語化することは、メンバーたちの納得感や意識醸成を得るための準備になります。
次に、「想定顧客(内外)の期待把握」を行います。DX専門組織が関与する企業内の部門、場合によってはグループ企業や社外へのサービス提供も踏まえ、どのようなニーズがあるのか、何を求められているのかを理解しておきます。こうすることで、組織運営において効果的な貢献ができないまま時間だけが過ぎてしてしまうといった事態を回避します
さらに、「顧客(内外)接点におけるサービス提供対象範囲の概要設定」において、DX専門組織が支援すべき社内外のステークホルダー(法人格や事業部門など)を特定し、ステークホルダーにどのようなサービスを提供していくか、概要レベルでアウトラインを策定します。これらの検討により、自分たちが何のために、誰に対して、どのような支援を行っていく組織なのか、骨格の概念が固まります。
「(2)DX専門組織の推進シナリオ作成」
(1)で概要レベルの組織方針の骨子が完成したら、DX専門組織の推進シナリオを作成します。「立ち上げ推進体制・メンバー定義」で、初期メンバーの人数や人物を特定します。
次に、「DX専門組織立ち上げ・推進・サービス設計アプローチ(概要スケジュール)作成」として、立ち上げに至るスケジュールを週単位の粒度、担当者も明記した上で計画します。それをインプットに、「DX専門組織の初期メンバー候補者との個人面談(1on1)」を行い、DX専門組織のあるべき姿や意義、進め方を説明し、候補者のDXに対する意思や意識を確認します。候補者の納得感を得て視線を合わせる、この手続きがないまま組織運営をスタートさせると、キックオフをしないままプロジェクトを開始して迷走してしまうような事態になりかねません。
次に「推進上の課題の明確化(リスク特定)」をします。組織運営に潜むリスクは、企業や組織文化にとってさまざまですが、早い段階で将来的なリスクにも目を向けることにより、健全な組織運営の実現につながります。DX専門組織の運営は、多様なステークホルダーと連携しつつ、変革を進めていくことが肝要です。
続いて、「マネジメント領域別概要設計(人事を含めたチェンジマネジメント/コミュニケーションプラン)」で、これまでに作成したDX専門組織の推進シナリオをどのように進めていくべきか、手順や頻度、手法について、方針レベルで整理することが重要です。また、DX専門組織へ他部門から人材を招集する場面がやってくることも想定し、人事部門を巻き込み、情報連携についても方針を検討しておくことが望ましいでしょう。
2.企画・設計
 DX専門組織のあるべき姿を明確化した後は、さらに一歩進んで、DX専門組織の運営に関わる企画の検討と各種設計に着手し、具体化を進めます。
「(3)As-Is:DX専門組織支援業務の把握」
DX専門組織は、企業がこれまで行ってこなかった新たな取り組みも実行することになります。デジタルCoE(Center of Excellence:デジタル知見に特化した知的専門集団)として、これまで各部門で行われてきた「デジタルに関わる業務の集約・実行」、また、外部ベンダーに委託していた「専門業務の代行」を担当することになります。そういった意味で、自社のデジタルに関わるAs-Is(現行の)業務を整理・把握し、現在地の可視化を行うことが肝要です。
まずは、部門ごとに行われていたデジタルに関わる、またDX専門組織が将来的にカバーする「業務量と業務内容把握」を行い、その業務が視覚化・整理された「As-Is業務フロー確認」を行います。企業によっては、必ずしも現行の業務フローが存在するとは限らないため、自社に存在するようであれば、有用な情報として活用するという位置づけで構いません。
次に、どのようなチーム編成で、どのように業務連携されていたのか、また、各業務にどの程度の工数をかけていたのかを把握する目的で、「業務体系と業務時間確認」を行います。その際、実際の業務品質(ドキュメント品質、開発プログラム品質など)はどの程度だったか、また、どのような判定基準で品質評価をしていたかを確認する目的で、「現状品質レベル把握」を行います。さらに、DX専門組織で新たに対応すべき事案を探る目的で、「部門課題の特定」を行います。各部門で現在進行形に進められているデジタル施策や、未着手ではありながら、これからDX専門組織による支援の下、推進すべきデジタル施策情報を一元的にリスト化しておきます。
これらの情報収集と整理を行います。将来的にDX専門組織が担うべき業務の現在地を把握しておかないと、全社DX推進におけるプランニングが困難になります。
「(4)As-Is:コスト構造と要因分析」
(3)で主に、業務オペレ―ションにおける現状の確認・整理をしましたが、将来的に支援・サービス提供側に位置するDX専門組織として、デジタルコストに関わる情報も把握しておく必要があります。
これまでの活動における、アプリケーション、インフラ、人件費などの費用について、予算策定、予算・実績(予実)管理ならびに共通デジタルコストの費用配賦などをどう実行したか把握するため、「業務別コスト(予算と配賦)構造分析」を実施します。将来的にDX専門組織が提供するサービスの値付けを考慮し、現状のデジタルコストの管理体系を可視化することに加え、プロジェクトごと、リソースごとの金額も把握できれば良いでしょう。さらに、これまでの各種デジタル施策においてコストが変動した要因など、「業務の変動要因の明確化」も併せて実施しておきます。DX専門組織が業務支援・サービスを提供していく上で同様の問題を回避するためでもありますが、そもそもの要因を抜本的に解決し、デジタルコストの変動を事前に発生させないようにするといった打ち手を検討・適用してくことも効果的です。
「(5)To-Be:DX専門組織支援業務の概要設計」
デジタルに関わるAs-Is(現行)の業務を整理・把握した後に、DX専門組織の業務を概要レベルで設計します。このタスクを着実に遂行し、To-Be(将来の)業務の言語化・具象化し、実際に組織運営が開始された後に、DX専門組織のメンバーが右往左往したり、ルール不在のまま非効率な働き方に陥ってしまったりすることを防ぎます。
To-Beの業務の概要を設計する最初のステップとして、DX専門組織としてどのような事案を支援し、サービスを提供していくのか、「提供サービスメニューの明確化」を行います。DX専門組織として、どんな仕事を請け負い、プロデュースしていくのか、DX専門組織内部で認識を合わせ、委託元であるステークホルダーにいつでも提示できるようサービスメニューをリスト化します。このアウトラインが固まり次第、サービスの提供品質をどのような管理項目で監視し、ステークホルダーに報告していくか、「ハイレベル品質基準管理項目の特定」を行います。さらに、サービスメニューごとに、どの程度の支援期間・総工数になるか、「業務別単位当たり時間の設定」を検討します。この情報も委託元であるステークホルダーが業務をDX専門組織へ依頼する際の参考情報になります。
続いて、DX専門組織の業務プロセスを定義します。実際の業務遂行の際に、誰がどんな業務を、どのような手順で進め、ステークホルダーとコミュニケーションしていくかを視覚的に理解しやすいよう、「To-Be支援業務フロー設計:作業者/管理者」を行います。ステークホルダーとの責任分界点を明確に定義する上で非常に重要なタスクです。
さらに、「指標(KPI+ターゲット)体系の設計(支援時間、案件数など)」と「支援単価設定(Pricing)」を行います。DX専門組織として、年間にどれほどの工数(時間)をステークホルダーへの支援に投下するか、どれほどの案件を取り扱うかといった指標(KPI+ターゲット:定量的な目標値)として定義し、時間当たりの支援単価(≒請求金額)を算出します。これらにより、組織としてのターゲット(目標)が定まり、一つひとつの提供サービスによって、そのターゲットをいかにクリアしていけばよいかという指針ができます。メンバーにも指針を示すことができるようになります。
これら支援業務の概要を設計することで、DX専門組織がどのように業務を進めていくべきか、大まかな骨格が見えてきます。なお支援単価には、DX専門組織とはいえ社内人材であること、また、支援依頼件数の低下やレピュテーションリスク、さらに、立ち上げ間もない時期でメンバースキルが醸成途上であることを考慮します。高い価格は設定せず、既存のIT部門の支援単価を参考に、同程度の価格設定とすることが望ましいでしょう。
「(6)To-Be:DX専門組織業務設計のまとめ」
DX専門組織のTo-Be業務の骨格(概要設計)が整理されてきたら、まとめに入ります。定義したサービスメニューごとに、サービス提供のアプローチ(タスク)を詳細に分解し、それぞれのサービスにどの程度の要員数・工数が必要か、「サービスメニュー別要員数シミュレーション」を行います。この情報と、As-Isの整理の中で収集した業務部門課題(着手中・未着手デジタル施策)のリストを基に、初年~3年目くらいまでに、どの部門にどのサービスを提供していくか(経年でそれぞれ支援する案件数)といった概要計画を策定しておくことも重要です。
その後、DX組織に所属するメンバーの「組織・職位別役割・Job Descriptionと体制定義」を進めます。招集したDX専門組織メンバーの個々が、自身に期待されている役割や職位階層を理解し、組織内で目線を合わせる意味でも重要な活動となります。
次に、「横断的会議体(レポーティング含め)設計」を行います。DX専門組織は多様なステークホルダーと接点を持ち、支援・サービス提供をしていきます。各部門の代表者を招集し、状況共有する会議体の頻度や参画メンバーなどを定義し、透明性の高い活動を目指すことが大切です。この際、会議体の中でのレポーティングアジェンダ(進展報告や貢献度、課題、他部門の成功事例など)も併せて策定するとよいでしょう。それに加えて、経営陣への報告に必要な会議体とレポーティングアジェンダを定義しておくことを推奨します。これらの情報・材料が整えば、今後のアクションプランを精緻(ち)にデザインできます。「新組織運用準備(<3.運用準備>以降)計画立案(WBS:Work Breakdown Structureレベル)」として、直近3~6カ月程度のタイムラインで、計画立案・可視化していきます。
DX専門組織の運用準備~試行運用~本格運用に進めていく期間「From-To」、タスク・担当、インプット/アウトプットを可視化された計画に落とし込み、メンバー内に共有し、いつまでに(When)、だれが(Who)、何を(What)するかを把握しておくことで、着実な組織立ち上げと推進を現実のものにします。

 次回は、引き続き「3.運用準備」「4.DX専門組織 試行運用」「5.DX専門組織 本格運用」について解説します。
https://japan.zdnet.com/article/35182529/

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