IT技術を活用し事業構造を抜本的に改革するDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速に向けた経済産業省の研究会が2020年12月に発表した「DXレポート2 中間取りまとめ」によると、DXに未着手またはDX途上という企業が全体の9割を占めた。日本企業のDXは、なぜ進まないのか。DXに成功し先駆的な事例として注目を集める出版業界の老舗企業KADOKAWAのDX戦略から、DX成功のカギを「経営視点」+「現場視点」の両軸で学ぶオンラインセミナーが開催された。《第1部》基調講演 「DXという経営改革の進め方の王道」オンラインセミナーは、KADOKAWAのDXを推進するための戦略子会社として設立された「株式会社KADOKAWA Connected」の各務茂雄社長による「DXという経営改革の進め方の王道」と題した基調講演からスタートした。各務氏は「世界一わかりやすいDX入門」 (東洋経済出版社)の著者で、株式会社ドワンゴのインフラ改革やKADOKAWAグループのDXを推進。その中で分かった、DXという経営改革を進めるための王道が紹介された。各務氏は「DXの道を究めるための第一歩はチーム作り」と指摘し、経営改革であるDXを進めるためには「インフラ、アプリケーション、業務のすべてが一体となった、スピーディーに変化できるチームが必要になる」と話す。各務氏の捉えるDXとは「知恵というアナログの価値を活かすことが必須で、そのためにデジタル思考を取り入れ、デジタル技術を活用する」こと。そのためには「自らを変革するエネルギーを持って、自分が作った実績に執着せず、自分自身をバージョンアップし、チームという新しい仕組みの中で新たに実績をつくる取り組みが、真のトランスフォーメーションにつながる」とも指摘する。そして、DXの種類を「守り」と「攻め」に分類し、それぞれが重要で「守りをしっかり固めなければ、攻めのDXは推進できない」と提唱する。守りのDXの一例として、2020年11月に埼玉県所沢市にオープンした「ところざわサクラタウン」(ミュージアム、イベント・ホテル・レストラン・書店・オフィス・神社など、あらゆる文化をひとつにした大型文化複合施設)における1000人規模のワークスタイル変革を紹介し、Slackなどのコミュニケーションツールを広めた手法を解説した。各務氏は「大事なのは企業文化の明文化」にあると話し、サービス型のチームをつくる方法として、以下の項目をあげる。・企業文化や行動規範が明文化されている・仕事の役割が明確に設計されている・コミュニケーションが最適化されている・実力主義で多様性がある・KPIやOKRがクリアになっている一方で、DXが失敗するパターンとして、以下を指摘する。・行動規範と実際の働き方に大きなギャップがある・仕事の役割があいまい・コミュニケーションコストが高い・同調圧力があり、年功序列・ゴール設定があいまい各務氏は「DXは道である」と提唱し、数年かけて開拓者が切り開いた登山道をフォロワーが続く形で、道をつくっていく取り組みが重要だと提言する。《第2部》基調講演 「現場からのボトムアップのDXの進め方」続く第二部では、KADOKAWA ConnectedのChief Customer Success Officer、菊本洋司氏が、「現場からのボトムアップのDXの進め方」と題する 基調講演を行った。菊本氏は「効率よく働いて機嫌のいい職場にするために マンガでわかる!驚くほど仕事がはかどるITツール活用術」 (KADOKAWA)の著者で、KADOKAWAにおけるボトムアップのDXの経験を交えて講演した。菊本氏は、DX推進を支援してきた経験から、次のような悩みをよく耳にすると話す。・トップライン向上施策の一部がデジタル化されたが、全社横断施策までは進められていない・ITツールを導入するが、既存の業務を単純に置き換えるだけで、思ったより効果が出ない・ITツールを活用するために業務改善活動に着手するも、既存の業務が可視化されておらず、また何かやろうとすると既得権益に触れて進まない菊本氏は「業務の境界の接点マネジメントがDX推進の鍵」だと指摘し、攻めのDXと守りのDXを自身の視点で整理する。この図が示す意図は「縦軸(攻めのDX)で頑張っても、社内のバックオフィスと連携しなければ、アナログの価値を引き出す差別化の効くDXができない」と解説する。この課題を解決するために、菊本氏がKADOKAWAで実施してきたことは「顧客(従業員)の成功体験を通して、全社ビジョンの実現を後押しすることに注力したカスタマー・サクセス・チームを立ち上げて、従業員の声に寄り添って、変えるべきことと変えないことをデジタル思考で整理した」という。そして、成功要因について、次の点を整理する。・プロジェクト推進担当チームに権限があり、また役割が明確になっていたこと。加えて、適切なエスカレーションパスがあったこと・プロジェクトの推進により、現場のキーマン(アーリーアダプター属性)との信頼関係構築が全社的にできたこと。これにより初期段階でサービスを磨き上げたうえで、効率的に全社展開ができた・これらの施策をカスタマー・サクセス・チームがハブとなり、粘り強くボトムアップで推し進めたことその具体的な取り組みとして漫画によるITツールの使い方を解説した社内マニュアルが作成された。ボトムアップを図るための施策として、漫画の活用が有効だと菊本氏は振り返る。《特別講演》テレワーク時代のセキュリティオンラインセミナーの最後には、Splunk Services Japan合同会社のシニアセールスエンジニア、山内一洋氏が、「テレワーク時代のセキュリティ」と題した特別講演を行った。テレワークの普及で、情報漏洩などが「これまでの境界防御では防げなくなっている」と山内氏は指摘する。社員の中には、VPNを使用せずに、業務PCをインターネットに接続して利用するケースが増え、企業がこれまで築いてきた境界防御では、社内情報を守れない事態が起きている。そのため、テレワークを狙ったサイバー攻撃が発生し、セキュリティリスクは増大している。山内氏は、クラウドにおけるセキュリティの責任共有モデルを提示し、クラウド利用には利用者が独自にセキュリティ対策を強化する必要性があると指摘する。
https://www.sankei.com/article/20210719-E6ORFPWTRVEOFCKGPHOM6ADSLU/