ほとんどのITプロジェクトには、必然的にデータ活用のイノベーションが必要になる。それはアナリティクス関連のプロジェクトであっても、IoTや人工知能、機械学習関連のプロジェクトであっても同じことだ。実際、ほとんどのデジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクトは、データの活用方法に関する変革だと言ってもいいほどだ。では、企業が収集している情報を最大限に活用できるデータ活用戦略を立案するには、どうすればいいのだろうか。
1.適切な基礎を構築する
米建設機械大手Caterpillarのデジタルデータ担当ディレクターであるBrandon Hootman氏は、この2年の間に、企業のデータ活用が転換点を迎えたと考えている。データラングリング(生データをより使いやすい形式に変換する処理)は依然として重要である一方で、一部の企業幹部は、試験的な取り組みを素早く進めたいというビジネス上の要求を重視するようになっている。
「この分野で今後本当に成功を収めるであろう企業は、データの管理やデータを取り扱う能力の向上に関して、より成熟したアプローチを取っている。試験的な試みを行う段階になると、データを事業部門に届けるのではなく、事業部門をデータのところに連れて行く」と同氏は言う。
Hootman氏はCaterpillarで、新しいビジネスユースケースを支えるために、「Snowflake」のデータパイプラインや管理機能、データレイク技術を使用して、情報源を1つに統合した分析のための基礎を構築した。同氏は、ほかの企業のデジタルリーダーに対しても同様のアプローチを勧めているが、それは必ずしも簡単なことでないという。
「これは大きな変化であり、残念ながら、ボタンを押せば簡単に済むわけではない」と同氏は言う。「私たちがこれまで、これを実現できるような投資を行ってきたのは幸いだったし、私たちの今のやり方にはメリットが出始めている」
2.データの質の重要性を理解する
正しいデータへのアクセスは、ビジネスのあらゆる場面で重要だ。これには、顧客のセンチメント分析からセキュリティに至るまでの、あらゆるものが含まれる。出張管理プラットフォームを提供するTripActionsのセキュリティコンプライアンスおよびアシュアランス担当ディレクターを務めるPrabhath Karanth氏は、セキュリティについて経営陣と共有できるデータの観点から考えることを勧めている。
「データレイヤーの上にセキュリティ対策やセキュリティ計画を構築する形で環境を作れば、ずっと規模を拡大しやすくなり、経営陣に見せられる評価指標を作ることも簡単になる」と同氏は言う。
「また、自分の計画に対するセキュリティ投資を得るために、経営陣にデータに基づく深い分析情報を提供するのもずっと簡単になる」
Karanth氏はまた、セキュリティについてデータに基づいて検討するのを手助けしてくれる、技術的なソリューションやベンダーパートナーについても注意深く検討すべきだと述べている。
「この動きは今後も続く」と同氏は言う。「セキュリティやコンプライアンスに関してデータドリブンな思考様式を取り入れたチームや計画は、今後大きな成功を収めるだろう」
3.事業部門のユーザーに管理を委ねる
Capital One Softwareの製品「Slingshot」のエンジニアリング担当バイスプレジデントであるSalim Syed氏は、企業はデータに関する専門知識の大衆化に力を入れるべきであり、事業部門のユーザーに管理を委ねる部分を増やしていく必要があると述べている。事業部門の動きが速くなるほど、成功の可能性は高まる。
「データは大衆化されなくてはならない。データエンジニアリングは大衆化される必要がある」と同氏は言う。「事業部門が求めているのは、彼らが必要としている知見や、彼らが実行したいモデルに辿り付くこと、そして現代の仕事に求められるスピードで動けるようになることだ」
Syed氏は、エンジニアリングやバックエンドの統合で行き詰まれば、多くの時間を無駄にしてしまうと主張した。むしろ、実際に使えるプラットフォームを作り、適切なポリシーとプロセスを定め、事業部門のユーザーにデータを扱ってみるチャンスを与えるべきだという。
「データを製品として扱い、オーナーを設定して、あらゆることを効果的に管理すべきだ」と同氏は述べている。「私の意見では、効果的なモデルは、ポリシーとツールは中央で決め、オーナーシップは連携して担うことだ。リスクについてあらかじめ検討し、ガードレールを設けた上で、イノベーションを追求していくべきだ」
4.システムは修正し続ける必要があることを前提とする
ファッションブランドPANGAIAのアナリティクス責任者Daniel Smith氏は、データを最大限に活かしたければ、適切なソースシステムを導入することが重要だと述べている。そうすれば、意思決定プロセスで分析情報を利用する方法について検討するのもずっと楽になるという。
「『早めに失敗し、教訓を得て、それを繰り返す』文化を持つ必要がある。最初のバージョンで完璧なソリューションを構築することは決してできない。それには反復が必要だし、自分が正しいと考えているときでさえ、変えなければならないことの優先順位は常に変わっていくものだ」とSmith氏は言う。
Smith氏は、Board Internationalと協力して売上情報の報告プロセスを改革し、複数のデータソースを整理統合して、同社の分析能力を高めようとしている。
重要なメッセージは、データを最大限に活かそうとするあらゆる試みは、常に未完成であるということだとSmith氏は語った。「うちには修正されたことがないダッシュボードは存在しない。長い間修正されていないダッシュボードでも、おそらく長くて2カ月ほどだろう」
5.情報エコシステムの構築を目指す
英国内向けに電車移動のための経路検索やチケット予約を行うサービスを提供しているTrainlineの最高技術責任者(CTO)Milena Nikolic氏は、データ中心の変革を社内だけに止めてはならないと語った。同社は、社内で収集したデータと業界全体から収集したデータを使って、顧客体験を改善するための機能を構築している。
「私たちは意思決定に多くのデータを使用しているが、これは非常に重要なことだ」と同氏は言う。「そのデータは、ユーザーが私たちの製品をどう使っているかに関するもので、ユーザーの同意を得てプライバシーに配慮した形で収集したものだ。私たちはそのデータを、適切なことができているかを定量的に分析したり、適切なゴールを設定したり、適切な水準の野望を設定したりするために使っているとともに、間違いが起きそうなときにそれを発見するためにも使っている」
同氏は、Trainlineの長期的なアプローチは、外部の組織と協力してAPIを構築することだと述べている。その狙いは、ビジネスや、ビジネスの顧客や、同じ業界のほかの企業がメリットを得られるようにすることだ。
「鉄道はエコシステムだ。私たちは、自分がエコシステムの一部であり、成功するためにはエコシステムのほかの参加者と協力する必要があると理解している。これには鉄道事業者だけでなく、そのほかにもあらゆる関係者が含まれる。そのため、パートナーシップが重要になる。重要なのは、もっとたくさんの人に鉄道を使ってもらうために正しいことをやることだ」