日本マーケティング学会が刊行する『マーケティングジャーナル』の内容を噛み砕いて、第一線で活躍中のマーケターに向けて紹介する本連載。今回のテーマは「ダイナミック・プライシングとDX」。各領域の最新動向を、4つの研究成果を通じて紐解いていきます。

①4つの論文から価格のあり方とDXを考える
②価格戦略の系譜:インターネットがもたらした影響とは?
③サブスクリプションの利用程度と顧客満足の関係性
④組織変革を進めるダイナミック・ケイパビリティ

①4つの論文から価格のあり方とDXを考える
今回はデジタル環境下における価格のあり方とDXについて考えてみましょう。この連載では毎回さまざまな角度から今後のマーケティングについて議論が続けられていますが、マーケティングの4Pから考えた場合に、価格についての議論があまり行われてきませんでした。このことが、今回価格を取り上げた理由です。近年はデジタル環境下の価格マネジメントについて、さまざまな研究が行われ始めています。今回はこのような中から、デジタル環境下の価格全般に関するトレンドについての研究、およびサブスクリプション・サービスの利用者の顧客満足に関する研究をご紹介します。
またデジタル環境下のビジネスが向かう方向として、DXに関する研究や提言が近年豊富に蓄積されています。今回はDXに関する最新の研究成果を2つご紹介します。

②価格戦略の系譜:インターネットがもたらした影響とは?
インターネットが私たちの日常生活に入り込んで来たのは1990年代の半ば前後からですが、この頃からマーケティングにおける価格戦略にも、インターネットやデジタル化がさまざまな影響を及ぼしてきました。

 山形大学の兼子准教授と学習院大学の上田教授による論文「プライシングの系譜」では、価格に関連するさまざまな概念を整理し、従来の諸研究を手際よくまとめています。たとえば表1「Tellis(1986)の価格戦略の分類」では、さまざまな価格戦略の分類を示しています。ここでは消費者の特性と企業の目的に応じて最適な価格戦略が9つのカテゴリーに分類されており、たいへんわかりやすく、実践的な分類となっています。
同じ論文の図2「価格戦略の系譜」では、インターネットの普及がもたらしたEC市場やクラウド・コンピューティング、IoTなどのデジタル化の進展にともなって、価格戦略がどのように変化してきたかが一目でわかるように整理されています。この図によれば、2010年代に入ってデジタル財のサブスクリプションが導入され、さらに2015年以降には非デジタル財にもサブスクリプションが導入されてきたこと、また最近のAIを活用したダイナミック・プライシングは2015年以降に導入されていますが、AIを用いないダイナミック・プライシングは1990年代半ばにはすでに導入されていたことがわかります。近年のサブスクリプションの普及の背後には、製品を所有するということに関する消費者の考え方の変化があることを指摘しています。
ダイナミック・プライシングとは、さまざまな条件や要因に応じて柔軟に価格が変更される仕組みであるのに対して、サブスクリプションとは一般には製品やサービスを定額で一定期間使用する仕組みを指しています。つまり前者は価格が変動し、後者は価格が固定されます。一般にはこのようなイメージが持たれていますが、兼子准教授と上田教授は、今後はこのようなサブスクリプションとダイナミック・プライシングが組み合わされた形のサービスが登場するであろうことを論文の最後で暗示しています。このような実践は、ビジネスの面からも学術的な面からも、とても興味深い可能性を秘めています。

③サブスクリプションの利用程度と顧客満足の関係性
みなさんは、サブスクリプション・サービスを利用されているでしょうか。たとえばNetflixのような月額払いで利用し放題のサービスは、近年とても増えています。このようなサービスを契約している利用者の中には、フィットネスクラブがよく例にあげられますが、ほとんど利用していないのに毎月利用料を支払っていたり、また利用機会が必ずしも多くないのにそれほど大きな不満をもっていない利用者が大勢います。従来のマーケティングや消費者行動の理解では、消費者は満足していればたくさん使うし、あまり使わなければ支払わないことが常識とされてきたので、上に述べたような近年のサブスクリプションの利用行動は、一般的な支払い意識と満足の関係とは異なっています。

 福岡大学の太宰准教授の論文「サブスクリプション・サービス利用と顧客満足の特性」は、このようなデジタル財におけるサブスクリプション・サービスの利用の程度と満足との関係を探った、とてもユニークな論文です。この論文では、NetflixやAmazon Prime Videoなどを含む全20の定額動画配信サービスやオンライン英会話スクール等の満足度についてオリコンが行った調査の結果を用いて分析を行いました。分析の結果として、以下のようなことがわかりました。以下に示すのは、太宰准教授の論文中に「図4サブスクリプション利用における閾値」として示されているグラフです。
も、「これ以上利用が減ったら満足度が下がる」という閾値が、週1回の利用を下回るかどうかという点にあることがわかりました(グラフ中の「週次」の部分)。

 第2に、またオンライン英会話スクールでは、利用の程度が「ほぼ毎日」という、いわば利用が習慣化した状態になるときに、満足度がもう一段高まるのに対して、定額動画配信サービスには、そのようなもう一段満足度が高まる閾値は見られませんでした。これは、オンライン英会話サービスが学習サービスであるため、「毎日のように利用(学習)が出来ている」という「望ましい」状態が存在するのに対して、定額動画配信サービスにおいては「非常にたくさん視聴したら、より望ましい状態になる」ということはないから、と考えられます(グラフ中の「日次」の部分)。

 第3に、定額動画配信サービスでもオンライン英会話でも、長期的な利用の継続は満足を感じる際に考慮されにくいことがわかりました。利用者が満足について考える際には、より短期的な判断が下される傾向があるのです。

④組織変革を進めるダイナミック・ケイパビリティ
続いて、一橋大学の藤川准教授と小樽商科大学の近藤教授他によるDXに関する2本の論文をご紹介します。1本目の論文(概念アプローチ)は、組織がDXを進めるためにはどのような能力が必要なのかを考察しています。2本目の論文(事例アプローチ)は、実際にDXを行った組織の事例研究となっています。
近年はDXの重要性がさまざまなところで強調されるようになってきましたが、他方で実際にDXを進めようとして挫折する企業もたくさんあります。それでは、組織がDXを進めるためには、どのような段階を踏むのが適切なのでしょうか。またそれぞれの段階において、さらにDXを次の段階に進めるためには、どのような能力が必要なのでしょうか。

この論文では、従来のDX研究やサービス研究などの領域で蓄積されてきた数多くの研究から知見を得て、組織のDXが進むプロセスを「社外—社内」と「プラットフォームがある—ない」の2つの軸を組み合わせて、以下のように整理しました。以下の図は、理論編中に図5「デジタル・トランスフォーメーションのダイナミック・プロセスモデル」として収録されているものです。
このように、「概念アプローチ」では「社内—社外」「プラットフォームあり—なし」の2軸から構成される4つの象限を、左下の「スタンドアローン」から右下「社内共有プラットフォーム」、または左上「企業間情報/データ共有」を経て、最終的に右上「デジタル・プラットフォーム・エコシステム」に至る2つのルート(図中の「パスⅠ」「パスⅡ」)が存在することを示しました。また、それぞれの移行において必要とされる組織の能力(ケイパビリティ)にはどのようなものがあるのかを、先行研究に基づいて明らかにしています。
「事例アプローチ」では、上記の「パスⅠ」および「パスⅡ」の経路を経て組織変革を進めた実際企業の事例を詳細に検討し、「概念アプローチ」で示された能力が、現実の組織変革のプロセスにおいて実際に必要であったかどうかを検証しています。

 藤川准教授と近藤教授によるこれらの2つの論文は、今後DXを進めようとしている企業、またはすでにとりかかっているが、さらにどのようにDXを進めていくかについてヒントがほしい企業や経営者にとって、すばらしいヒントを提供してくれる論文です。組織やビジネスのDXに悩む方々には、ぜひご一読をお勧めしたい論文です。
https://markezine.jp/article/detail/38349

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