地元での起業を後押しする取り組みが東北の大学で広がっている。少子化の進む地域を自ら活性化させる人材を育て、若者の県外流出を食い止めたい狙いもある。
「起業・創業者は自分のアイデアを柔軟に経営に生かすことができる。起業した中小企業経営者が自らの戦略に取り組むための支援をしていく」。5月20日に秋田市であった秋田県立大、秋田公立美術大、国際教養大の公立3大学などによる連携プロジェクト「ソウゾウの森会議」で、中小企業庁の職員が語りかけた。
プロジェクトは昨年、3大学と東京の企画会社「Q0(キューゼロ)」が、「100人の起業家精神を持った人々をつくる」と掲げ発足した。県内外の民間企業やシンクタンクも運営に携わり、昨年11月~今年5月に計5回会議を開催。3大学の専門家らが講演してきた。
会議の特徴は、大学側と学生だけでなく、すでに会社を興した人や起業を考えている若者、創業支援にあたる機関の担当者などが幅広く参加でき、直接交流する点だ。5月の回も中小企業庁の担当者が「秋田における起業が果たす役割」をテーマに話した後、少人数のグループに分かれて意見交換した。
あるグループでは、国際教養大を卒業後、秋田で映像制作会社を立ち上げた栗原エミルさん(26)が、「秋田ではチャレンジへの応援が手厚かった。新しいことをやれば、自分がフロンティアになり得る」と振り返った。別のグループでは行政の支援策について「前例がないとだめと言われる」との声が出ると、中小企業庁の担当者が「役所には未知のものへのアレルギーがある。前例踏襲はだめだと分かっているが……」と応じた。
参加した国際教養大3年の渡辺優羽(ゆう)さん(20)は食品ロスをなくすソーシャルビジネスに関心がある。「大学にいたら知り合うことのできない人たちと話すことができた。9月からは北欧で現地の事例を見る予定で、地域にどう貢献していくか考えたい」と話した。
プロジェクトリーダーを務める県立大の高田克彦教授は「進学で秋田に来て、県外に出て行く学生も多い。その何割かでもここで何かを始めてもらうことで、10年、20年後の秋田を豊かにしていきたい」と狙いを語る。
◇東北大学も学生の起業支援に力を入れており、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育強化を掲げるプログラムを始めている。昨年からは主に高校生と大学1、2年生を対象に、起業家や研究者らへのインタビューや、自分の未来を構想する課題を用意している。
国も起業家教育を進めており、2021年度までの5年間の事業として全国の五つの大学グループを公募で選定し、補助金を支給してきた。うち一つは東北大を中心に北海道大、京都大学、宮城大など6大学が連携。宮城県女川町など被災地でのフィールドワークや海外への派遣を重ね、まちづくりを学んだ。地元の特性を生かした産業を生み出し、世界に発信できる人材を育てるのが目的だ。東北大は21年度時点で大学発ベンチャー企業が157社あり、30年までにさらに100社創出を目標に掲げる。
また、山形大も早稲田大などと組んで参加した国の事業終了とともに「アントレプレナーシップ開発センター」を設置。理工系の起業実績を土台に、ものづくりなどの新規事業創出に力を入れている。(井上怜)
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