NANDフラッシュメモリの最大の特徴は記憶密度の高さ、言い換えると記憶容量当たりの製造コストの低さにある。ただし、性能はあまり高くない。ランダムな読み出しは遅く、ランダムな書き込みはさらに遅い。NORフラッシュメモリはランダムな読み出しが速い。ランダムな書き込みは遅いものの、NANDフラッシュメモリに比べれば、速い。
ただし、アドレスをインクリメントするシークエンシャルな読み出しと書き込みでは、NANDフラッシュメモリは遅くはない。画像データや音声データなどのストリーミングデータを扱うと、NANDフラッシュメモリの方がNORフラッシュメモリよりも高速になる。そして何より、NANDフラッシュメモリは記憶容量当たりの製造コストが低い。
このため携帯電話端末では、NANDフラッシュメモリと低消費電力DRAMを搭載することによってNORフラッシュメモリを置き換える動きが進んだ。この流れは、スマートフォンで急激に加速する。2010年代に登場したスマートフォンは、当初から、NANDフラッシュメモリを搭載した。
スマートフォンのマイクロプロセッサは、埋め込み不揮発性メモリを搭載しない。不揮発性メモリ、具体的にはNANDフラッシュメモリは、外付けである。
NORフラッシュを埋め込み用に変更してマイコンに搭載
スタンドアロンのフラッシュメモリ技術は、そのままではマイコンの埋め込みメモリには使えない。マイコンの製造技術はCMOSロジックのプロセスである。しかしフラッシュメモリの製造技術は独特であり、CMOSロジックとの互換性がない。マイコンと同じシリコンダイにフラッシュメモリを埋め込むためには、製造技術をCMOSロジック互換に変更する必要がある。
埋め込み用フラッシュメモリのベースとなる技術は、NORフラッシュメモリ技術だ。NANDフラッシュメモリ技術は使われなかった。その大きな理由は、マイコンが内蔵する不揮発性メモリは主に、プログラムのコードを格納することにある。プログラムのコードは、読み出しのアドレスがランダムに変わるとともに、読み出すデータの容量があまり多くない。ランダム読み出しが高速な、NORタイプが適している。
また、NANDフラッシュメモリは製造プロセスが特殊で、CMOSロジックと互換のプロセスが開発しにくいという理由もある。NORフラッシュメモリも独自の製造プロセスを使うものの、NANDフラッシュメモリに比べれば、CMOSロジックに近い。
これらの理由から、マイコンが内蔵するフラッシュメモリには、NORフラッシュメモリ技術をCMOSロジック互換に変更したプロセスが開発され、採用されてきた。
製造技術をCMOSロジック互換に変更した代償は、微細化の遅れである。スタンドアロンのNORフラッシュメモリに比べ、マイコンが内蔵するNORフラッシュメモリはメモリセルが大きい。言い換えると、記憶密度が低い。埋め込み用のNORフラッシュ技術は、スタンドアロンのNORフラッシュ技術に比べると、数世代は遅れたメモリセル寸法にならざるを得なかった。
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