新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、学校教育に求められる姿が変化してきているとして、文科省は2月25日、当面の学校教育政策で重視する考え方や取り組みを整理した「教育進化のための改革ビジョン」を公表した。基本理念として「誰一人取り残さず、個々の可能性を最大限に引き出す教育」と「教職員が安心して本務に集中できる環境」の2点を掲げ、リアルとデジタルの最適な組み合わせなど4つの柱を設定。特に力を入れていく施策として、▽来年度から3カ年かけてコミュニティ・スクールの導入を加速し、経済界とも直接対話しながら、児童生徒の「リアルな体験」機会を充実させる▽同省内に末松信介文科相を本部長とする学校DX推進本部を新設し、教員研修の高度化や教員のICT活用技術の向上、校務の情報化などによる学校の働き方改革の具体化に取り組む--という方向性を明確にした。

2つの基本理念を支える4つの柱について、末松文科相は同日の閣議後会見で、それぞれの狙いを説明した。

 第1の柱は、リアルとデジタルの最適な組み合わせによる価値創造的な学びの推進、とした。「GIGAスクール構想を進めてきたが、コロナ禍では、学校行事や学校外の活動が制約され、特に経済的に困難を抱える家庭では、体験機会が少なくなっている。デジタル時代だからこそ、実体験を通して学ぶ価値を再認識し、リアルとデジタルの最適な組み合わせによる価値創造的な学びを推進する」と説明。さらに「文系理系の枠にとらわれない、探究的な学びや、教科横断的な学びを、大学、企業とも連携して推進していく」と述べた。

 第2の柱は、これまでの学校では十分な教育や支援が行き届かない子供への教育機会の保障。「従来の教育政策は、障害のある子供や、不登校の子供、困窮家庭の子供、特異な才能のある子供、日本語指導が必要な子供への対応が必ずしも十分でない面があった。どのような状況にある子供も取り残さず、寄り添っていくための施策の拡充を図っていきたい」と力を込めた。

 第3の柱は、地域の絆を深め共生社会を実現するための学校・家庭・地域の連携強化、を挙げた。「少子化や核家族化が進む中で、現在の子供たちは豊かな体験の絶対量が不足している。コロナ禍で、この傾向に拍車が掛かっている。異年齢交流やボランティア、職業体験、介護体験など、人と関わる機会の拡充を、学校を核とする教育システムに組み込むことが大変重要だ」と強調。「具体的な仕掛けとして、2022年度から24年度を重点期間として、コミュニティ・スクールの導入を加速させる。経済団体とも直接対話し、企業やNPOを学校の活動に本格的に巻き込む、大きな流れを作っていく」と続けた。

 第4の柱は、基本理念ともなっている、教職員が安心して本務に集中できる環境整備。「本日、閣議決定した(教員の研修履歴の管理などを定めた)教育公務員特例法や(教員免許更新制の廃止を盛り込んだ)教育職員免許法案は近く国会で審議いただく。それと同時に、デジタル技術の活用を含め、研修を高度化する方策や、校務の情報化をはじめとする働き方改革を具体化するために、学校DX推進本部を設置し強力に進めていく」と説明した。

 文科省は、今後、特に力を入れていく施策として、子供たちに対する「学校内外での豊かな体験機会の確保」と、教員に向けた「研修の高度化、ICT活用技術の向上、校務の情報化などを通じた働き方改革の具体化」の2点を強調している。

 前者の体験機会の確保では、保護者や地域住民が参画して学校運営協議会を設置するコミュニティ・スクールを核として、地域や企業との連携を手厚くし、異年齢集団での地域活動、職業体験、ボランティア、自然・文化芸術体験、読書など「全ての子供に学校内外での体験活動の定着」を目指す。

 ただ、コミュニティ・スクールは地方教育行政法で設置が努力義務とされているものの、21年5月時点で導入済みの公立学校は、全体の33.3%に当たる1万1856校にとどまる。このため、22年度から3カ年を重点期間に設定し、公立学校の100%が導入するという目標の達成を図る。同省では「コミュニティ・スクールのエンジンとなる地域学校協働活動推進員の配置を促進するため、来年度予算の概算要求に必要経費を盛り込むなど、財政措置も視野に入ってくる」(総合政策教育局政策課)と、従来よりも踏み込んだ取り組みを視野に入れている。

 教員向けの後者では、末松文科相が本部長となる学校DX推進本部が中核となって、デジタル技術を教員研修の高度化や学校の働き方改革につなげていくことが狙いとなっている。同省は「GIGAスクール構想によって学校のICT環境整備は飛躍的に進んできているが、教員研修や働き方改革には必ずしもリンクしていない。教員のICT活用技術の向上にも課題がある。それらをセットで進めることが重要で、そのために学校DX推進本部を設置した」(同課)と説明。来年度予算の概算要求に先立ち、「夏前には方向性を出す」としている。

 文科省「教育進化のための改革ビジョン」の概要

2つの基本理念
〇誰一人取り残さず個々の可能性を最大限に引き出す教育
〇教職員が安心して本務に集中できる環境

4つの柱
〇「リアル」×「デジタル」の最適な組み合わせによる価値創造的な学びの推進
〇これまでの学校では十分な教育や支援が行き届かない子供への教育機会の保障
〇地域の絆を深め共生社会を実現するための学校・家庭・地域の連携強化
〇教職員が安心して本務に集中できる環境整備

今後の施策展開の方向性 ※◎は特に重視している項目
〇個別最適な学びと協働的な学びの日常化
・幼児期からの学びや生活の基盤を育む質の高い教育の提供
・デジタル教科書などを活用した学びの充実
・授業時数の弾力化や、学年を超えた学びの検証・開発

〇特別な指導や支援が必要な子供への学びの場の提供
・特別なニーズのある子供(障害、不登校、特異な才能、日本語指導等)やへき地の子供を対象としたオンラインなどを活用した教育・支援の充実
・特例校の設置促進などによる、通常の学校だけでは十分な教育、支援が届かない子供への学びの場の確保
・学校内における個々のニーズに応じた取り出し指導など柔軟な指導の実施(障害、特異な才能、学習の遅れ、日本語指導など)

〇全ての生徒の能力を伸長する高校教育の提供
・発達障害や不登校経験者など多様な高校生への支援と通信制高校の質保証
・普通科改革等による地域・大学・企業等と連携した探究・STEAM教育、デジタル人材など専門高校と産業界が一体となった人材育成
・対面指導と遠隔・オンライン指導の最適な組み合わせ

〇質の高い教職員集団の形成
・免許制度改革や勤務形態の柔軟化などを通じた、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成
・教職課程の見直し、教員養成大学・教職大学院の機能強化・高度化
・教員勤務実態調査や35人学級の効果検証を踏まえ、給与・処遇、多様な専門人材・支援スタッフを含めた教職員の配置の在り方の検討

◎地域や企業の力を巻き込んだ学校運営や「リアルな体験」機会の充実
・全ての学校でのコミュニティ・スクールの導入を加速(重点期間:令和4~6年度)
・地域や企業と学校が連携した形での学習支援や、豊かな体験機会の提供
・地域や企業と連携し全ての子供に学校内外での体験活動の定着(異年齢集団での地域活動、職業体験、ボランティア、自然・文化芸術体験、読書など)や課題を抱える子供たちを対象とした体験活動の充実
 ⇒経済界との直接対話により強力に推進

◎教員研修の高度化、働き方改革の実効性を高める観点からの環境整備
・デジタル技術の活用を含めた教員研修のさらなる高度化や教師のICT活用技術の向上
・校務の情報化をはじめとする学校における働き方改革を具体化する抜本的方策を検討
 ⇒学校DX推進本部(本部長・末松信介文科相)を設置し強力に推進
https://www.kyobun.co.jp/news/20220225_06/

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